「ポケモン竜王戦2024」 公式サイト

藤井聡太竜王と株式会社ポケモン代表取締役社長・石原恒和の対談

将棋とポケモンカードゲームの共通点などについて対談した藤井聡太竜王(左)ポケモン社の石原恒和社長=若杉和希撮影

ポケモンバトルの最強を決める大会「ポケモン竜王戦2024」(主催・株式会社ポケモン、共催・読売新聞社、日本将棋連盟)が2月25日、将棋の竜王戦七番勝負の舞台でもある東京都渋谷区のセルリアンタワー能楽堂で開かれる。いずれも思考力を競う「マインドスポーツ」と位置づけられるゲームの将来などについて、ポケモン社の石原恒和社長(66)と藤井聡太竜王(21)が語り合った。(文化部 星野誠)

相手見て作戦練る 将棋と共通

ポケモンと竜王戦の“融合”について、どんな印象を持っていますか。

藤井
私はポケモンとあまり接点がありませんでしたが、自分の世代では『ポケモン GO』(2016年に配信を開始したスマートフォン向けゲーム)などがはやっていました。最初に「ポケモン竜王戦」と聞いた時は、すごく面白い組み合わせだなと。これまで将棋は伝統文化の側面で捉えられることが多かったのですが、ポケモンとの共同事業で、ゲームとしての面白さが注目されるのではないかと期待しています。
石原
僕自身も小さい頃から囲碁や将棋などを楽しんできました。ポケモンは生まれて28年ですが、将棋は数百年も受け継がれている。その背景をもっと勉強してみたいという思いで、ポケモン竜王戦を企画しました。二つは全く違っているようでいて、ある種共通する部分もありますし。

共通する部分とは。

藤井
将棋もポケモンカードゲームも1対1で対戦するゲーム。将棋は相手の手や構想を見て、それに対して条件の良い形を目指していくというのが基本的な考え方です。ポケモンバトルにもポケモン同士の相性があって、自分の構想だけでなく、相手の出方を見て作戦を立てる必要があるところは近いのかなと思います。
石原
互いに自分の番でできることをやり、ターン制で勝負を決めるところはよく似ていますね。ほかにも共通する部分として、ジュニア部門は5、6歳ぐらいのやんちゃな子どもたちも参戦していますが、冷静に落ち着いて戦ってほしいので、対戦前には握手をして、「お願いします」とあいさつすることを公式ルールとしています。
藤井
将棋も礼に始まり、礼に終わると言われます。対局は勝負という側面もありますが、同時に相手とのコミュニケーションでもある。私も子どもの頃はやんちゃなところがあって、周りの人に迷惑をかけてしまうこともありましたが、将棋を通じて、少しずつ成長できたかなと思います。

教育的な面で共通点があるのは興味深いです。一方、運の要素があるかどうかは大きな違いです。

石原
将棋は運に左右されないゲーム。そこで僕は、ルールを変えて、もっと面白くできないのかなと思ってしまうんです。例えば、飛車と角を4枚全部集めたら勝ちとか、サイコロを振って偶数なら角、奇数なら飛車を動かしていいとか。藤井竜王は小さい頃、強い相手に勝てないのがきつくなかったですか。
藤井
負けて悔しいと思うことはよくあったんですけど、それだけに勝った時、うまく指せた時の喜びが大きいです。ポケモンを含めた様々なゲームと比較すると将棋のルールはすごくシンプルです。その世界に少し入ってみると、想像以上に奥深い世界が広がっている。シンプルさと奥深さのギャップにひかれています。

対局の面白さ 可視化の工夫

将棋は長い歴史を持つ伝統文化ですが、近年は対局をエンターテインメントとして楽しむ「観る将」が増えています。

石原
将棋AI(人工知能)の形勢判断が導入されたことで、対局の見方はがらりと変わりました。先手が95%ぐらいの勝率だったのに、失着で優劣が大逆転してしまう。対局の内容は分からなくても、評価値のバーが大きく動くのを見て、人は感動するんですよね。ポケモンでも将棋界を参考にして、今大会のゲーム部門でAIの形勢判断を導入することにしました。
藤井
ここ数年で、将棋やeスポーツなどを見て楽しむという文化が盛り上がってきていると感じています。ただ、将棋AIによってミスが可視化されやすい一方、残念ながら好手は可視化されにくい。そういうところを含めて、将棋の魅力や対局の面白さをどうやって伝えていけるかが今後の課題だと思います。

カードの絵 言語を超える

石原
ポケモンは世界に広がっていて、カードバトルでは相手のカードがタイ語だったり、インドネシア語だったりする。でも、絵が共通しているから、競技に出るレベルの子どもたちは言語を超えてカードの意味が全部分かるんです。将棋の駒の文字はポケモンカードに比べればとてもシンプルですから、工夫次第で世界にどんどん広がっていくチャンスがあると思います。

「ポケモン竜王戦2024」とは

将棋界最高峰のタイトル「竜王」の名を冠したポケモンバトルの大会。コロナ禍の影響で2021年の第4回大会を最後に開催を見合わせてきた。3年ぶりとなる大会では、ゲーム部門(Nintendo Switchソフト『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』)とカードゲーム部門に、5対5で競う戦略バトルゲーム『ポケモンユナイト』部門が加わり、計3部門でポケモン竜王の座を奪い合う。

石原恒和社長の略歴

いしはら・つねかず

1957年、三重県生まれ。1996年にポケモンの原点となるゲーム『ポケットモンスター 赤・緑』をプロデュースした。1998年に「ポケモンセンター」(現・ポケモン)を設立。以来、社長としてゲーム、カードゲームなどポケモンのブランド全体を統括している。

藤井聡太竜王の略歴

ふじい・そうた

2002年生まれ、愛知県瀬戸市出身。杉本昌隆八段門下。2016年に史上最年少の14歳2か月でプロ入り。最年少での棋戦優勝やタイトル獲得など記録を更新し続けており、昨年10月には史上初の全八冠(竜王、名人、王位、叡王、王座、棋王、王将、棋聖)独占を成し遂げた。

(2024年2月8日 読売新聞)